天から降ってきたピラミッドが刺さっちゃった感じの奇怪な建物。
作為的に作られた無駄の極みのような空間。
お洒落って、こういうことかい。
国家試験。
会場の東京ビックサイトには一時間前に到着。
ゆりかもめのクソ高い電車賃に疑問を抱きつつ、椎名林檎をBGMにゆらりゆらり。
国際展示場前で降りると、近所に住んでいる学校の友達に肩を叩かれる。
昼御飯を食べてから試験に臨むらしく、僕はコーヒーを飲みに喫茶店に入る。
食事の間を世間話し、あとは試験勉強を始める。
僕はガラス越しに海を見ている。
海はわりと好きだ。
地元も海間近、広島にいたときも海と友達みたいた生活。
だからというわけじゃないけど、無意識に海に落ち着きを感じている。
僕はこんな海が好きだ。
コンクリートに囲まれ、工場やぼろ船、タンカーなんかが似合う都会に疲れた海が。
眩しく照りつける太陽を、ゆらりゆらり波間に写す。
小さな伝馬船がすり足しているように、穏やかに航波をたてている。
土曜だろうか。
人気のない対岸の工場地帯。
忘れられた人工物は静かで、穏やかな波間の太陽だけが唯一の生き物みたい。
積み荷を下ろしきったタンカーは、赤い錆止め塗装の土手っ腹を不様に露呈している。
まるで上陸作戦の後、浜に乗り上げ砲台と化した駆逐艦のよう。
ガラスで区切られた室内は、心地よい温度。
どこか錯覚しそうで、しかし羽織ったコートがそれを阻むのだが…
そんな光景。
平和だ。
もう試験に行かねばならないらしい。
マークシート、ダメ元で塗ってきます。
後書き。
試験時間を優に半分以上残し、退席した。
おびただしい数、何千人いるかしらないが、僕より先に退室した人を知らない。
この時間にこうしている僕は、果てしないバカなんだろう。
40問は真剣にやった。
あとの40問は一条のビームのように「2」を潰しておいた。
試験中、ずっと「遭難」のギターソロが鳴っていたわけで、どうにもこうにも無理っす。
足早にピラミッドを後にし、進行方向を背にゆりかもめ車内で座る。
試験前に椎名林檎なんて聞くんじゃなかったなぁ、って思ってもいないセリフを思ってみたり…
ゆりかもめはレインボーブリッジ?を走る。
足元には運河のように穏やかな海。
なんだ、大きな風呂みたい。
銀色の球体を持ち上げたビルが、対岸に行ってしまった。
奇怪なビルたちを乗っけた江戸防衛の浮島は、やっぱり今でもどことなく軍隊色を醸している。
疎らにそびえるミサイルサイロみたい。
なんだか清々しい。
邪魔するものがないような感じがする。
見たものをそのまま食べて、それが絶対とか嘘とか関係なくて、確かに手応えを感じて、ちょっぴり幸せだと思っている。
後ろ向きで進むゆりかもめ。
人生みたいに。
離れていく雲を、空を、そして喫茶店から見た海を、また思い出せるかなって思う。
僕はゆりかもめを後にする。
そして現実に戻る。
曜日に忠実なこの新橋も、今日のようにシンプルならばいいかなって。
世界が西日に染まっていく。
気持ち良く目覚めた朝のように、ぼんやり今日はいい日だと思う。
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